聞き上手の反対なのだ

熱帯夜が続く夏のある日。

その日、親父はワインをガブガブ飲んで、生ハムをばくばく食っていた。
食い終わるや、布団の上でうっちゃられていたタオルケットの上にバタンと倒れてキューと寝た。

一時間後、親父が顔を歪めて居間に出てきた。そんなに電気が眩しいかねえという程、眉間に皺を寄せていた。
「イタタタタタッ!!」
親父は両手で腹を押さえていた。
居間を通過して便所に駆け込んだ。
なかなか外に出ず、断続的に水を流す音がした。
どうやら、腹を壊しているようだ。
「調子に乗ってガブ飲みするからだよ」 母が言った。
その後、3回くらい駆け込んでいた。


「イタイィッ!!」

深夜2時に家中響く声。尋常ではない事態が起こっている模様。救急車が必要か?
親父の部屋へ行くと、電気がついていた。
親父は部屋の隅に突っ立ち、眉間に皺を寄せていた。
親父は腹……ではなく、手の甲を押さえていた。

「ムカデにさされた」

親父の足元で、ガラス灰皿で潰されたムカデが息絶えていた。

「ムカデは2匹で行動して居るというからねえ」
「本当か? ぶっ殺してやる」
母が言うと、すぐに親父は布団を乱暴にめくり、乱暴に襖を開けて、暗い押入れを覗きこんだ。
「見つけれるわけないよ。朝になるよ」
「おちおち寝れねえ」

間もなく、大きい鼾が家じゅうに響いた。


以上の話しを、後日そのまま祖母(当時86歳)に聞かせてあげた。
祖母は、じっと私の目を見つめつつ黙って聞いていた。
話を聞き終わると、祖母が、真顔で言った。

「腹痛だと思ってたら、ムカデに腹を噛まれたんか」


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