小山

我が高校の敷地内には、サッカーグラウンドの横に、小さな山があった。

山頂には砂利が敷かれ、ちょっとした木のベンチがあり、街を見下ろせるほど眺めが良いので、晴れた日に吹奏楽部の人が楽器を演奏している様子は、優雅な青春を描いていた。
3人ぐらいの文科系女子がベンチでお弁当を食べる画は、昼下がりのカフェよりも、おしとやかである。

他にも、山の活用法は様々あった。

体育をさぼったのが見付かると、
「殴うぞ」
と、体育教師が迫ってきた。
そして、
「山」
と教師が言うと、我々は軍長から逃げるように山へ行き、十往復走らなければならない。高さはそこまでないが、斜面を走るとなると結構キツくて、帰宅部は吐きそうになる。
野球部やサッカー部は、毎日何往復も走っては体力をつけるのに利用していた。

テニス部には、五十年以上も行われている伝統行事があった。毎年5月になると、一年坊主は山頂から下界のテニスコートへ向かって、アニメソングを一曲歌わせられる。選曲も自ら手掛けなければならなく、歌唱力とセンスを問はれる地獄のハラスメントである。尚、この日に逃げたら、翌日独りで歌わなければならない。


卒業してから数年後、ふと、あの山の高さは何メートルだろう?  30メートルぐらいかな?

と、思ったので、

『高校にあった山の高さって何メートルだと思う?』

と、高校の同級生A、B、Cに聞いてみた。以下は、それぞれの返信である。

A『25メートルだな。』

B『30メートルより少し低いと思います』

C『うーん  よくわからんが三階の校舎よりは高かったから、50メートルぐらいかな~』



50メートルですってええっ!!

それだけは有り得ない!
浅草にあるウ○コビル(別名アサヒスーパードライホール)ですら、ウンコのてっぺんが45メートルである。
山が50メートルもあったら、サッカーグラウンドは終日日陰である。
と、思ったので、Cに、もう少しだけお話しを伺ってみた。

黒字が私で、赤字がCのメールである。

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12:33
『校舎の高さは何メートルか分かる?』

15:21
『10メートルぐらいじゃないか』

15:27
『山の高さは、
俺は30メートル
Aは25メートル
Bは30メートルより少し低い
って言ってる。

人によってエライ異なるな。自信はある?』

15:38
『知らないけど、じゃあ30メートルで  どーでもいいが、標高じゃないんか  校舎の入り口に行くまでも結構上がるし  好きに決めて』

15:41
『詳しい高さ知りたいけど、どうもメートルで表しても読み手はピンとこんな、人によって感覚違うから、となると、高さ伝える描写が厄介だ』

15:57
『三階建て校舎の倍ぐらいでいいんじゃないか』

16:06
『校舎の3倍に近いと思う?』

16:06
『じゃあそんくらいで』

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なんとCは、"標高"と言った。海面から山の高さを計算していた。
なるほど学校の山は、海からの高さが50メートルということなのか……。
確かに、校門から学校の敷地内へ行くのも坂を登らなければならないので、校門からサッカーグラウンドまでも幾らか高さがある。

しかし、どのようにして、海面から校門までの高さを割り出したのだろう?

日本では、本土から遠く離れた離島における標高を除いて、東京湾の平均海面である「東京湾平均海面 (T.P.)」 を標高の基準としている。
鳥取から数百kmも離れた海抜0mから校門までの高さを、瞬時に計算するのは不可能であろう。

普通は、山と接地した地面(サッカーグラウンド)から山頂までの高さを答えると思うが……。

非常に怪しい。
彼は、裏の真実を隠すために嘘をついている可能性がある。

実は、最初の山の高さを聞いた質問の時に、Cは、サッカーグラウンドからの高さが50メートルだと思っていた。
しかし、他の人々の推測を知り、自身の感覚が大幅にずれていることに気付いた。
自分の感覚のズレを他者に悟られまいと、海抜0メートルから測った風を装うために、"標高"という言葉を後付けした。
「海面からサッカーグラウンドまでの高さが20メートルあるからあ」と言えば、グラウンドから山の高さは30メートルということになり、Cもズレてないことになる。

Cが、ズレを誤魔化したことを裏付ける決定的な証拠が、メール文面に残っていた。
今一度、上のやりとりをご覧いただきたい。

Cが、山の高さは50メートルと答えた直後に、

『校舎の高さは何メートルか分かる?』

と、私が聞くと、彼は、

『10メートルぐらいじゃないか

と、答えている。
標高で計算していたならば、校舎の高さも、海面から校舎が接地している地面までの高さである20メートルを足して、
『30メートル』
と、答えなければならない。


身体測定を学校ですれば、2181.4センチと記さねばならない。