名前①

小学生の時、同じ地区に、"タマゴ"と呼ばれていた2コ上の男子が居た。
ニックネームなのだが、
(なぜタマゴなんだろう……?)
と不思議に思っていた。
由来を聞いても、教えてくれないし、『タマゴぉ』と年下が呼んだら、髪を掴んでくる。
その男子は、"斉野尾"という苗字だった。発音は"サイノオ"だが、皆が『サイノウ君』と呼んでたし、"サイノウ"と聞こえた。だから、"才能"と混ざっていた。
今考えると、○○の才能がある人のことを、"○○の卵"と呼ぶこともあるので、そこの卵を取って、"タマゴ"と命名されたのでは…と、思う。
それにしても、珍しい名前だ。

就活の時に、"ごらい"という苗字の学生が居た。漢字は分からないが、縁起が良さそうな響きである。
「アナタの苗字は、珍しいので、それだけで先方に覚えて貰える」
と、面接官に褒められていた。
最終選考で、同じ実力の田中さんと争えば、ごらいさんが内定を勝ち取るであろう。

中学2年生の時、"玲子"先生という教師が居た。
初めての自己紹介の時に、先生が黒板の中央に、
"玲子"と書き、
「私の名前ですけど、この字読めますか?」
と、聞いた。
「難しいでーす」、「読めませ~ん!」
と、生徒達。
すると先生が、
「レイコと読みます。普通は、礼子や麗子って書きますよ。でも、難しい読み方の名前を親に付けられてしまったの。"玲"って、冷たくて暗い感じがしませんか? 麗子が良かったな。ある日、こう書き間違えられたことがありました」

珍子

と、先生が板書して、鋭い目付きで皆を見回した。

(……これは、ドヤ顔の類いだ)
しょっぱな笑いを取って、生徒諸君の心をツカミたかったのだろう。でも、それ、チュウニに言ったらアカンやろ。
その後先生は、調子に乗った男子生徒によって、苗字の頭2文字と、間違えられた名前である"珍子"の頭2文字を組み合わされて、"ミノチン"と命名された。
「ミノチン、ミノチン」って、父兄も普通に呼んでたからね。良き時代だ。
先生の苗字が、"古田"じゃなくて良かったと思う。


"珍"繋がりで言えば、ある飲み会で、"くり子"という名前の女性が居た。
しかも、漢字ではなく、平仮名で"くり"と書くと本人が言っていた。
「へ~、珍しいじゃん!」
と、名前をその場で聞いた男性は、誰もが目を丸くしていた。何かの本心を隠すように。



名前②へ行く】