歳を重ねるごとに、冬が恐怖となりゆく。
例え屋内でも、廊下を歩くだけで、皮膚が痛い。脱衣所でマッパになれば、骨が痛い。寝床の朝方は、常に身体じゅうに強烈な液体ムヒがコーティングされているかのようにスースーする。
昔は、夏の方が怖ろしかった。夏場は、頭の血管が煮えたぎり、思考回路がショートし易かった。冬は、クールダウンでしっかりしていた。しかし今では、血管が収縮して、きついハンガーをコメカミ部に挟んでいるようにキリキリする毎日である。
御存知のように、"寒さ"というのはストレスの要因であり、暑さはストレスに含まれない。寒さは痛みを持っている。ソビエト連邦は、寒冷に負けた。
気温が、前日よりもぐっと下がった日に、おでんが売れるという。気温が低い時ではない。気温が下がったということを身体が感じた時に、暖を取りたくなるわけだ。ならば、体温が低い人間の方が、冬の外気との温度差を感知せずに済む。平熱が10度以下の低体温な人間が羨ましい。
有名校進学が全てと思っている息子、背伸びして大人になろうとしている夜遊び娘、鏡餅にしか見えない嫁、そもそも結婚願望ゼロ夫、それらが構成員の冷えきった家庭でも、低体温なら冷えを感知しないのだから、崩壊しないであろう。「いただきマンモス」と朝一の食卓で夫が言おうと、誰も殺意を抱かない。サムさを感じないのだから。
低体温、できれば、変温アニマルになりたい。
真冬の私は徹底的に凍てつき、分子レベルも運動しないので、身体がフリーズして動かない。私はスリム或いはスレンダーである。周囲は嫉妬して、”骨と皮しかない”と表現してくるけど。
何にせよ、骨が透けて見える熱帯魚のように体が薄いので、保温性のある脂肪が欲しい。良い容姿には興味無いので、デブになりたい。いや、デブスになりたい。容姿に自信がなくなれば、身の程を自覚でき、本仮屋ユイカ以外とは付き合いたくないという呪縛から解き放たれるであろう。
次いでに背も低くなりたい。現在高身長なので、頭をぶつけ易い。コタツで寝たら、足を伸ばすとはみ出すので、折り曲げざるを得ない。いつも折り曲げているのに、いっこうに膝が縮まず、背が変化しない。チビデブスなら、身の丈が知れ、吉永小百合が結婚した時に傷心せずに済んだ。私は高身長でスタイルが良いので、クレオパトラもイケると思ってしまい、その期待こそが苦悩の元なのだ。
しかも、背が高いと、当然天井が低くなる。部屋の中央に寝転がると、四隅まで埋まる。同じ1Kアパートに住んでいても、高身長の方が低身長よりも空間が狭い。にもかかわらず、どちらも家賃が同額というのは、どう考えてもオカシイ。