引力

『林檎が木から落ちるのを見て、万有引力を発見した』

実はこの逸話は、後付けされた造言である。
こ洒落た禁断の実を用いて、話を美化している。
これから真実を話そう。

私がニュートンだった頃、まだ万有引力を発見する以前に、寝たきりになってしまったことがあった。
身体が鉛のようになり、起き上がることができなかった。これが、男の更年期障害というやつなのか……。
そしてこの時期から、異変が起こった。
私はどちらかといえば、痩せた娘が好みであるのに、何故か肥えた娘に引かれるようになった。
"スレンダー,美女,パツキン,ジャンヌダルク"でタグ検索する人間だったのに、目方がある人にほど引き寄せられた。
寝室を解体してベッドごとクレーンで吊り上げられて脱出している0.5トンなぞ見れば、是が非でも御近付きになりたいと身震いしてしまう。
それを聞いた”ガリレオガリ好きレイ”が、『デブスの神の狂信者』と私のことを呼び、からかってきた。

ある日、病床のベッドから転落した……私が病床から落ちた……私が、ベッドから、落ちた……そして、地べたに、貼り付いた………何かが閃きそうだ。
私は暫く仰向けで寝た状態で静止していた。そこへ、細みで綺麗なナースが駆け付けて来てくれたのだが、私は自力で頭を上げることすらできなかった。華奢なナースが、応援を呼びに行った。

「大丈夫ドスか?」
力士のようなナースが、真上から顔を覗き込んできた。
すると、不思議と身体が動き出し、頭部が地から離れた。そして上体も浮き、遂には立つことが出来た。
二人のナースが、私を挟むようにして肩を貸してくれた。
ところが、ベッドに横たわろうとしても、離れられない、ナースから。しかも、大きい方から。
どうせなら、細みの方にひっつきたいと頭では思っているのだが、身体が勝手にデブに密着してしまうのだ。
そして、自身の意思ではカノジョから離れることができないのである。
「アイムソーリー」
「いいでありんす」
……ひょっとしたら、今この場に、自身では抗えないとてつもない力が発生しているのではないか……そうか! そうだったんだ!!
巨肉にめり込みながら閃いた。
最初、私は地べたに貼り付いて離れられなかった。これは、地球が私を引っ張っていたからである。ところが、カノジョが近づいた途端、私はカノジョに引き寄せられた。これは、カノジョの重量が、私を引っ張ったのが原因である。
重い者ほど、体を引き寄せる力が強いのである。そして全ての物体の間には、互いに引き合う力が存在する(万有引力)。

カノジョは、私にとって月だった。月のせいで、私の心に波が立ち、引き寄せられ、満たされる(満ち潮)。
海面体が上昇して熱くなった。カノジョに顔を近付ける。
やはり、月だ。無数のクレーターが頬にあった。


『男がポッチャリ女子に惹かれる7つの理由』/ニュートン著より抜粋