私は見世物小屋へ行き、トランプマンよりも壮大なマジックが出来ると吹聴した。
誰だアンタはと皆に思われたが、私は動じること無く「これよりテレポーテーションを行います」と言った。実はタネも仕掛けもあるトリックだが、”テレポ”と表現することでインパクトを与えた。
私は、ある直線道路の上に、一人の人間を立たせた。
そして、その人間から後方５０メートルの地点に、私が立った。
私の前方に、人間の背中が見える状態でこう言った。
「今から私が前へ歩き、前方に居る人を追い抜きます。そのまま私は真っ直ぐ歩き、二度と振り返りません。ところが、私は、あの人の背後から出現します」
まさかそんなことできるわけないと、観衆がどよめいた。愚衆が鎮まるのを待ち、いよいよ私が歩き出した。前に立つ人間を追い抜き、そのまま真っ直ぐ歩いた。今確実に、私の後方に人間が立っている。
私は更に真っ直ぐ歩いた。それでも尚も真っ直ぐ歩いた。山を越え、谷を越え、海を渡り、ブラジルを横切り、更にも真っ直ぐ進んだ。
そして、地球を一周した私は当然、立っていた人間の後方から現れた。背後から近付き、背中をタッチした時に振り返った人間の表情は今でも忘れられない。
それにしても、髭が伸びるのが早い人だった。
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