ラメン食ぶる

【※"ラメン食ぶる悲しい受験生(随筆)"から移転した記事】


すみれとの初体験はハタチだった。すみれを舌で撫でた瞬間、身体が硬直した。感動して涙が零れ落ちた。

この味噌スウプが水道水から出たら、ずっと飲みたいと思ったものだ。
ポンジュースが出る蛇口が国内に実際にあるからね。是非とも行政に動いてもらい、上水道濃厚味噌を設置して頂きたい。

と、
ずっと、思っていました。
しかしね。学生が終わって社会に揉まれると、それに伴い胃腸も脆弱になるのか、すみれのことが重く感じるようになってきた。すみれの存在は、翌日の午後まで残った。

美しい花。例えば薔薇にはトゲがある。
美しい人。例え彼女が生まれながらの善人でも、周囲の男達に甘やかされてきた結果として、美人達は悪意無き魔性をはらんでしまっている。
そして美しい味。にもね、毒がある。週五で濃厚スウプを飲み干していれば、身体はじわじわ蝕まれていくであろう。毒婦にトリカブトを盛られていくように。
あらぶる”美”には”毒”が付きものなのさ。しかしその全てが美味。その中に浸るのは悦なことだが、正に中毒。


以上の現実からもお分かりのように、"すみれ"に行くと、決まって「うまい!」を連発するグループが居る。あの病的な濃厚味噌を口にすれば、声を出さずにはいられないのだろう。

ある日、隣りに座った3人組の男女が「うめーうめー」と感動しながら食べていた。

「あち。欠点はスープを飲んだ時に舌を火傷することだな」
「これって、湯気がサア。油の下に閉じ込められていて湯気が立たないから、つい熱いということを忘れてしまうんだよね」
「うめーうめー」
「このまえ綾瀬はるかがサア、出てたんだけどお、」
「アヤセハルカって誰?」
「綾瀬はるか知らないの?」
「連ドラ出てるじゃん。CMも」
「知らない」
「かなり有名だよねー。ポカリも出てるよね」
「うん。口が変な子」

と、顔が変な娘が言ってた。