もしもドラクエの魔法が1つ使えるとすれば何選ぶ⑤

・キアリク(麻痺を治療する)
友人の鈴木君は、暇さえあれば一人旅に出る。
国外に三週間ぐらい滞在するが、どこの国も、食べ物の衛生度は極めて悪い。貧乏旅行なので大衆食堂しか行けず、インドなんて汚染度抜群。
到着初日は、ナマモノは決して口にせず、火を通したモノしか食べないが、それでも腹を下すらしい。しかしそれは最初のうちだけで、旅を続けているうちに現地の食べ物に慣れ、胃が頑丈になるらしい。敏感にイヤンと感じていた腸が、貫禄を持ちどっしりと構えるようになるのだ。
要するにそういう状態を、”麻痺る(マヒル)”という。
以上のように、麻痺は悪いことばかりではない。ちょっとしたヨソ者がかすめただけでも、アチャコチャ慌てふためいて身体の具合を悪くする過敏反応とは、真逆の反応なのだ。
ようやく旅慣れした鈴木君にキアリクを掛ければ、麻痺リが解け、忽ちのうちに下痢でのたうちまはるであろう。それぐらいしか楽しみが思い付かない。


・シャナク(呪いを解く)
不要。私は呪いを、オバケ同様一切信じない。呪いには、科学的根拠が無い。

”触ると石化する呪いの石”があると仮定する。
本当に石化したとすれば、以下の科学的原因が考えられる。

①石に青酸が塗ってあったり、石自体が放射鉱物はウランやプルトニウムである可能性が高い。
ウランちゃんが致死量の放射線を発するか否かは詳しく知らないが、それらを触った手でオニギリを食べたりすれば、中毒死することは充分考えられる。その後その場で死後硬直したのを目撃した人等が、”石”と例えて呼んだ可能性がある。
また、呪いの石は、大抵人気の無い立入禁止区域内に祀られているので、死者は誰からも気付かれずにミイラ化し易い。その様体は、石化に等しい。
要するに、カチコチになった死体を石と例えただけのこと。ほんまもんの石になるなんて有り得ない。尿管結石の”石”だって、あのごつごつした岩を構成する”石”とは成分も異なる”石”であるのに、”石”と呼ばれているでしょうが。

②呪いの石であると、あまりにも信じてしまい、手が石から離れなくなった。
人を殺めてしまった場合に、自分が握っているナイフを離そうとしても、手からなかなか離れないという現象が頻繁に起こる。これは、極度の緊張と恐怖によって、身体の血管が収縮しているのが原因である。
このように、身体ごと強張ってしまい、硬直を体験した人間が、「祟りじゃ祟りじゃあっ!」と”むら”に広めたのが、云われの始まりである。
「女の乳房を触ると吸い付いてきて手が離れなくなるんだぜ」
と、中1の時に部活の先輩から聞いたことがあるが、これも初体験のド緊張からであり、同じ原理であろう。

呪いと同様に”祝い”も信じない。祝いは信用できない。
御目出とうの言葉と共に捧げられる満面の笑み。大抵、目が全く笑っていない。基本的に、他人の幸福が楽しいはずがない。
特に結婚式。
新郎の友人男性はオメデトウと思っていない。別にどーでも良いのである。いや、どちらかと言えば、不都合か。新郎は、今後は妻だけの為に心労重ねて辛労することを余儀なくされて付き合いが悪くなるので、友人と遊べなくなる。折角コンパで私の引き立て役だったのに、休日は不美人妻や愚息のサポートで外出できなくなる。
新婦の友人女性は、言わずもがなコンチキショウと下唇を出血するほど犬歯で噛み締めている。”どうやって捕獲したんだ早々に離婚しやがれ”と心底呪っている。せめてもの慰みは、新郎が低収入であることぐらいである。最近、離婚が多い要因は、お局様の呪いが効いているからである。近年は殺伐とした世の中なので、3人に1人の女性が呪いを掛けられていると云われている。
そんな貴女にシャナク。


もしもドラクエの魔法が1つ使えるとすれば何選ぶ⑥へ行く】