大罪

三十歳の時に、中学時代の友人から、「何人かの元級友と飲むから来ないか?」と誘われた。「新見さんも来るよ」と言われた。
新見さんを最後に見たのは、高校生の時。当時の彼女の容姿は、特に可も不可もなく、本当に普通の50点だったので、別に心は踊らなかった。
とはいえ、私は二十代後半辺りから、外見より内面重視になっていた。やはり大半の大人の男は、内面が美しい人に対してのみしか本気モードのスイッチは入らないということを、女性陣には知っておいてもらいたい。
若者ほどとにかくビジュアル重視。単純に可愛い娘と付き合い、その副産物として周囲を羨ましがらせたい。女性をアクセサリーの1つとして捉える。それが若男である。
ところが、年齢を重ねると男も変化してくる。内面を重視し出す。それは、女性が経済力を男に求めるように、男は女性に家庭を支える力(家事力)や、女を捨てて母になることを求めるようになる。また、美人過ぎると、他の男に誘惑される怖れもある。常に世の男性をとりこにするクレオパトラ的な美貌なんて要らない。『美人は三日で飽きるブスは三日で慣れる』とはよく出来た言葉である。

そういうわけで、顔の造りなんかに囚われずの、性格から滲み出る表情や仕種に主眼を置く思想のもとで、飲み会に臨んだ。
十年以上ぶりの新見さんは、すっかり大人の女性になっていた。とりあえず外見は67点。高校時代よりも上がっていた。まあ、”中の上”とはカノジョのことを言うのだろう。
カノジョは、話し掛ける度に笑顔で応えてくれた。更に、時折見せる、純粋無垢な笑いには惹き付けられた。しかし同時に、(本当に心から笑ってくれているのだろうか?)と、いささかな不安も産まれた。
もっとカノジョのことを知りたい、カノジョの表情の裏にある心情の内実を解き明かしたいと思った。
「またお話ししましょう」と言うと、新見さんは快くメールアドレスを交換してくれた。

飲み会に誘ってくれた友人と帰りが一緒になったので、御礼の言葉をかけた。
「今日は来て良かった。幹事の仕事サンキュー。新見さんって、よく笑う人になってたな」
「しずちゃんみたい」

似てる。特にウシシと色の悪い歯茎を剥き出した笑みはクリソツ。
いや、でも、しずちゃんよりは遥かにマシ…う~む……30点。
私はその日のうちに、”南キャン静代”のメアドを消去した。

幹事がそのネームを口にしていなければ、私達は連絡を取り合い、二人きりで逢瀬を重ねていたかもしれない。
彼の心無き一言が、私が気付けないでいた真実を引き起こし、芽生えかけていた恋の芽を摘んでしまったのである。